新・善行銀行①
■善行銀行■
主人公のミツルは中学3年生。どちらかと言うと中の下くらいのルックスに学力。クラスでもあまり冴えない目立たないタイプの少年だった。中学に入ってから将棋部に所属し持ち前の集中力でそこそこ実力はついてきたが、なかなか結果を出すことができない。大事なところで詰めが甘い、気持ちで負けてしまうのだ。
密かに思いを寄せるクラスメートのカオリにもたまに話す機会があってもなかなか上手く話す事ができないようなどこでもいる平凡でシャイなタイプ。
そんな冴えないミツルだけども、彼を愛してくれる人もいた。
小さい頃からミツルの事をかわいがってくれた祖母。ミツルには本当に甘いが時には厳しく叱ってくれる人だった。ミツルもそんな祖母の事が大好きだった。
ミツルが中学 3年生になって少し経った頃から、祖母は体を悪くしてしまい床に伏せる状態が続いていた。そしてそんなある日、床に横になりながら祖母がミツルを呼んだ。
「おばあちゃん。話があるって何?どうしたの?」
「ミツル。おばあちゃんから渡したいものがあってねぇ。」
祖母が枕もとから出したもの。それは一冊の通帳だった。
"【善行銀行】"
という聞き慣れない銀行名が書かれた通帳。
「これはおばあちゃんが昔からコツコツと大切に貯めて来たもので、ミツルが困った時に使ってもらおうって思ってね。」
この時渡されたこの通帳が、祖母の形見になった。
祖母が亡くなってからも、ミツルは普通に学生生活を送っていた。あい変わらず冴えない毎日。
そんな時にミツルはどうしても欲しい物が出来てお金が必要になってしまう。
当然貯金なんてものはない。
そんな時、ミツルは【善行銀行】の存在を思い出す。
「そうだ。おばあちゃんからもらった通帳がある。」
少しくらい使ってもこれは俺がもらったものだからおばあちゃんもきっと喜んでくれるだろう。
ミツルは善行銀行を必死に探しだし、お金を下ろそうと受付に行く。
しかし、受付の人からは意外な言葉が返って来た。
「申し訳ございませんが、この銀行ではお金は扱っていません。」
「え?どう言う事ですか?」
ミツルは疑問に思って聞き返す。
「はい。この【善行銀行】で扱ってるもの。それは何を隠そう【徳】というものなのです。」
「え…?とく???」
ミツルはこの思いがけない言葉に困惑してしまった。
【徳】を扱う銀行?
(つづく)
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