新・善行銀行③
祖母が残してくれた【徳】の力のおかげで順風満帆な生活を送っていたミツルだったが…。
その異変に気付いたのは昨日までケンカひとつしないくらいに仲の良かったカオリが突然別れを切り出して来た時であった。
「ミツル。私達、やっぱり合わないよ。ごめん。」
そんな事を言い始めたのである。
今まで大活躍だった体育の授業でもミスを連発してしまう始末。
その日の授業が終ると、ミツルは銀行に走った。
(おかしい。昨日までは全部が順調だったのが、今日に来ておかしくなった。)
そして、通帳を記入してみて驚いた。
『残高 0』
そう。
ミツルは祖母が大事に溜めてきた【徳】を全部使い果たしてしまったのだ。
まずい!このままでは本当にカオリと別れなくてはいけなくなってしまう。
「すみません。残高が全くなくなってしまったんですけど何か方法ってないんですか?」
「そういう事でしたら【徳】は銀行からお貸しする事が出来ますが…。」
「それなら、それでお願いします。今【徳】を使えないとまずいんですよ。」
「かしこまりました。しかし【徳】をお貸しする事は可能なのですが。これには条件があります。利子というものはご存知ですね?それを毎日必ずお返しして貰う事になりますが、それは大丈夫でしょうか?」
「え?それはどうしたらいいんですか?」
「簡単な事です。毎日1回、必ず善い行いをしてもらう事です。その行いが利子の支払いとなります。その【一日一善】を絶対に怠らないようにしてください。」
銀行から借りた【善】のおかげで再びカオリとの仲も復活した。
デートで電車に乗った時もしっかりと高齢者に席をゆずり、落ちてる空き缶を拾ってきちんと捨て献血に積極的に協力し、グリーンリボンキャンペーンにも参加した。
ミツルはしっかりと【一日一善】を実行していた。
だがミツルは次第にそれを怠るようになって行く。
人間というものは一度怠けると、なかなか元に戻るのは難しい。
ミツルはすっかり怠惰な生活を送るようになってしまっていた。
全く【一日一善】をしなくなりしばらく経った頃、銀行から督促の通知が来た。
「利子の支払いが滞っています。」
しかし、ミツルはその通知が届いてる事には全く気付いていなかったのだ。
そのまま月日が流れて行く。
何度も何度も警告の通知が来ていたが、ミツルはその通知には気づいていなかった。
それはある意味催促の無視であった。
そして、ついに【善行銀行】も最終警告の督促状を送ってきた。
「○月×日の△時までに滞納している分の【善】のお支払いが無い場合、一括で強制的に返済してもらう形を取らせてもらいます。ご了承ください。」
銀行が最終期限と決めたその日、○月×日
ミツルはいつもの学校からの帰り道を歩いていた。
そこに、居眠り運転のトラックが突っ込んで来たのだ!
あっと言う間の出来事にミツルは避ける事も出来なかった。
そして、ミツルはそのまま病院に運ばれたが二度と目を開ける事はなかった。
時を同じくして、同じ病院の手術待機室の内線が鳴った。
疲れて椅子にうなだれていた感じの医師がその内線の受話器を取った。そしてその瞬間顔を上げた。
「それは本当か!!?」
「はい。本当です!移植可能だそうです!救急から連絡があったのですが、たった今事故で亡くなれた方が臓器提供可能者だったそうです。内臓の損傷も無く、死後20分。状態良好だそうです。」
「今まさに諦めかけていたっていうのに、こんな奇跡信じていいのか?よし!ありがたくその提供者の臓器を使わせてもらおう!」
内線を切ってから、その医師は手術室に足早に歩き始めた。
「【善人】ってのは本当にいるもんなんだな」
数日後。
ミツルの自宅には善行銀行からの最後の通知が来ていた。
「○月×日 △時 ■■■ ミツル様 全額返済完了いたしました。 善行銀行」