新・善行銀行②
やっとの事で見つけ出した善行銀行。
さぞかしおばあちゃんが貯めていた貯金が沢山あるのだろうと思ったミツルだったが…。
「え?お金じゃなくて【徳】って一体どういう事ですか?」
ミツルは疑問に思って聞き返す。
「はい。この【善行銀行】で扱ってるもの。それは『徳』なのです。
あなたのおばあさんは本当に多くの善い(よい)行いをしてきました。それがこの通帳には全部記載されています。コツコツと沢山の【徳】を貯めてきたのです。」
「ええええ???その【徳】って貯められるものなんですか?それを貯めておいてどうするんですか?」
「はい。その貯まった【徳】を下ろす事で貴方に【善】が返って来ます。善(よ)い行いは自分に戻って来るものですからね。この善行銀行では、このように積み立てて来た【徳】を自分のために使う事が可能なのです。」
あまりにも不思議な展開に面喰らってしまったミツルだったが、物は試しと早速【徳】を少しおろしてみる事にした。
「ありがとうございます。きっと善い事が起きますよ。」
ニコっと笑う受付の人に見送られながらミツルは善行銀行を後にした。
半信半疑に思っていたミツルの考えはあっさりと打ち砕かれた。
その【徳】の効果は思いの他早く現れたのだ。
次の日。
ミツルが密かに想いを募らせて来たあの憧れのカオリが学校の休み時間に突然話し掛けてきたのだ。今まではまるでミツルとは会話さえなかったカオリが文化祭の事で聞きたい事があると話し掛けて来た。
何気ない一回切りの会話だったが、ミツルはすぐに気付いた。
(これが【徳】を下ろした効果なんだ
じゃあ、もっと【徳】をおろしたら、もしかしてきっともっと善い事が起きるに違いない。)
その日、学校が終わるとミツルは再び『善行銀行』に向かった。
そして、受付の女性に相談した所毎日善い事が起きるように、【徳】を自動引き落としにしてもらう事にしたのだ。
その日からミツルの生活は一変した。
通学途中の満員電車で、ミツルの前に座っていた人が降り座ることができた。それが一回や二回ではない。
寝坊して遅刻しそうな時も、親戚の叔父さんが車で通りかかり乗せて行ってくれたので間に合ったりしたこともあった。
クラスでも目立つような存在になり、運動でも勉強でも頭角を現し出した。大好きな将棋でも、ミツルの活躍で団体戦で地区大会優勝までこぎつけた。
カオリとも気軽に話せる関係になり、急速に仲良くなり始めたのだ。
ただ、まだミツルには不安があった。
進路のことだ
「カオリちゃんは高校どこ行くの?」
「私は、成城高校を受けようと思ってるわ。そこで軽音部に入りたいの」
成城高校は地域で有数の進学校だ
(成城高校かぁ、カオリちゃんと一緒の高校に行きたいけど…ちょっとな…)
進路指導の先生との面談では
「おまえ、進路どうするの?」
「ぼく…、せ…成城高校にいきたい!」
(あぁ、言っちゃた…)
「成城高校⁉︎、お前正気か?」
(僕の今の成績では無理だってのはわかってるよ。だけどねぇ…)
そんなミツルだったが
〜受験〜
「えっ、あった〜!」「やった〜!合格だ💮」
とうとうカオリと同じ高校に行くことができるようになった。
同じ高校に通い始め、カオリと話す機会が増え、ついにデートをするように。
かくしてカオリと付き合う事になったミツルは夢のような毎日を送る事になる。
生活は充実していた。
毎日が楽しかった。
しかし、その生活も長くは続かなかった。
使い続けて消費してる限り、モノは無くなるのが普通である。
(つづく)